監督の円熟の極みの様な名人芸か。成瀬は、雨月物語など素晴らしい作品で知られた監督であるが、この「乱れる」は、簡潔で、分かりやすい映画である、重要なキャストも数人で少なく兄嫁に恋する加山雄三と、1人で店を引っ張る兄嫁の高峰秀子、この2人ばかりであるので。お店といっても、小さな食料品店である。周りでは、スーパーマーケットが出来始め、町の小さなお店は、売上に苦労していた。兄嫁の高峯は、しっかり者の女で、戦後の焼け野原から、店を1人で再建したという誉の女でもある。大学は出たが、フラフラして遊んでいる若者加山である。兄は戦争で死んでしまい、子供もいない独身の様な綺麗な兄嫁さん。
店を守るか、恋に生きる女になるか、迷いに迷う高峯。実際の高嶺はそもそもお嬢様の様な人で食事もすべて女中がしていただろう事は想像がつく。香山に夜食を出すシーンはふざけてるのかと、文句も言いたくなるが。急所急所の演技は流石にうまいと思ったが、これも監督の手腕であろう。たとえ2人が結婚しても、町の中には2人の噂が一杯になり、幸せにはなれそうもないし、駆け落ちするしかないだろうーしかし、高峯は、自分の店が子供の様な物なので、手放せないのである。年齢が行き、既に現実的にしか生きられない女と、恋の情念に現実を忘れた若者のとの落差に、観ているものは、愕然とするのだ。
最後は、突然の悲劇が2人を引き裂くのである。見て損はないかもと思った作品である。