ハンネスは子供の時から除け者にされて来た子供であった。体も小さく、兄達と比べるといかにも頼りのない存在だった。
実母がなくなり、後妻のママが来てから いっそういじめられて、いつも森や丘で過ごしていた。
ただハンネスには不思議な特技があって 動物の心がわかり動物がハンネスを好いていたということだ。
ある羊飼いの手伝いを頼まれて、その才能を発揮するハンネス。たちまち評判になって羊飼いとして引っ張りだこになる。おまけに、動物の怪我や病気まで治してしまうので皆からありがたがられるようになり、次は、人間のカウンセラーとして悩みをきいてやる役になったのだった。村の困った人々が
ハンネスの小屋を訪ねて悩みを聞いてもらうと心がとても静まり、いかりや恐れが消えていくのだった。
それがまた評判になり色々な人が小屋にくるようになった。今まで仲の悪かった兄も態度が変わって来た。
だがハンネスは、相変わらず、野山の中を歩き、雲を見たり花を見つけたりする生活をしていた。
そんな中ある日、ハンネスは、丘のあたりで神のような救世主を見たのだった。
それを見た羊飼いの子が「ハンネスが救世主と話をしていたよ。」と人々に伝えたものだから
救世主と話ができる人間として またまた有名になってしまった。
ある日、大きな盗賊団が村にやって来て略奪と殺戮が始まった。
町の人々は、ハンネス に、この大きな災難を救ってもらおうとした。
神に祈り、神と話ができるハンネスなら救ってくれると期待をしたのだった。
ハンネスの心は子供のままであるのに、名前ばかり有名になってしまった。
結局ハンネスは死ぬほど祈ったが、神の恩恵は得られなかった。あの時丘であった救世主は、どこにいってしまったのであろうか?
ハンネスは疲れ果て広場に出たところを、人々に罵声を浴びせられ、倒れて死んでしまった。
かわいそうなハンネス 。
だがこれに似たような話をなぜか知っているような気がしてならない。
ハンネスのような少年、ハンネスのような不遇な運命に翻弄された青年は、現代にもいるのだろうと思わずにはいられない。
ハンネスのような心の綺麗な人間が、なぜ、こんな酷い目にあうのか。
ヘッセはなぜ、ハンネスを死なせてしまったのか。
世俗と交わるときは鳩のように無垢で、蛇のように狡猾であれ、と注意を促したキリスト。
そうでなければ、世俗に潰されかねないからである。