安土城に行くにあたって、いろいろな心配事があったが、上様の命令を断るわけにもいかず、家臣達とお呼ばれに焦点を合わせる家康であった。次々とお膳が運ばれてくる中で、絶品のヨドの鯉が運ばれてくる。総指揮を任された明智光秀が自慢そうな顔で見守る。
口に鯉の切身を一口運ぶも、途中で箸をぴたりと止めて、口に入れない。家来らも全員それを見て、食べるのを止めるのだった。
信長は「鯉が匂うと言われるか」と問うが、黙ったままの家康。…これが狙いであったのか。…
信長は急に膳を足で蹴り上げて光秀を殴り倒す。驚く光秀をなおも引きずり家康の前で光秀のアタマを殴りつけたのだった。
光秀は申し開きも許されず、スゴスゴと場から下がるしかなかった。
信長は失敗は絶対に許さない。光秀はお城を下ろされて秀吉の中国攻めに参加することになった。
だが、光秀は全く違った道を選ぶのである。光秀による本能寺の変は刻々と迫っていた。
お呼ばれの時、家康はお小姓の井伊直政をお供として連れて行った。お小姓はとにかく殿の側にいて良き妻の様にあれこれ気を揉むのである。
信長にもお小姓がいて森蘭丸といった。綺麗な華奢な男であった。まるで化粧をしているかの様に華やかであった。
この様に二人の殿にはそれぞれのお小姓がついている。
彼らはシェークスピアで言えば、道化のことであり、王には必ず道化がつくのである。
彼らは、何故か独特の教養があり、どんな問題にも適応できる能力がある。
下賤な事も、卑猥な冗談も、無礼な言葉もなんでもゆるされた。そしてそれらが許された唯一の身分であった。
普通の人間がやれば直ぐに首が跳ぶであろうことも。
やはり、信長や家康ともなれば、この様なお小姓がついているのだな。
だが、いざとなれば、彼らは殿との運命を一緒にする者達なのである。
リ王と共に歩む道化も、冷たい嵐の中で死んでしまうのである。