画家の宇野重吉は、芸術一徹の頑固な画家であった。そういうわけで、金になる絵を描かないので、いつも貧乏であった。彼には家族がいて、妻と娘が二人、彼女らは常に、宇野に寄り添い、彼の芸術のために協力を惜しまなかった。娘は会社で働き、家計を助けていた。
こんな頑固一徹の彼にもかつては弟子がいたのだが、一方的に破門してしまった。コレも彼の潔癖さゆえであったのだろう。
宇野が絵筆を握り画家の役をやるというのは、勿論誰も大賛成だったのだろう。何故なら彼以外には考えられないという理由で。
うまくやってのける彼に、ふむふむと相槌を打ちながら見ていると、いつの間にか、娘の絵が出来ていた。
朝の光を仰ぐ若い娘は彼の久々の人物画であった。展覧会用にと大きなサイズのキャンバスであった。
いつもジャガイモや、風景ばかり書いて来た彼にとって、一念発起の大作であった。
ところが丁度この時、彼の弟子であった者の絵画がイタリアで認められ、賞を取ったのだった。
宇野は弟子へのわだかまりなのか、怒り狂って、完成間近のキャンバスを切り裂いてしまう。賞など無意味だ!
実は、娘は、この弟子のことが好きだったので、その事も許せないというわけだったのか。
悲しむ娘や家族であった。何故なら、家族は並々ならぬ協力を彼にしてきたのであったから。
しかし友人の尽力もあって紆余曲折を辿って、宇野も、遂に、個展を開くまでになった。
個展では、彼の絵は大きく反響を呼び、売れていった。一番の大作のいのちの朝の肖像画も高額でで売れた。生きている間に報われて、彼は幸せな画家であった。