退役後は、農園で花を育てて売る商売をしていたアールであった。オン年90歳のイーストウッドは、そのままで、絵になってしまう豪華さがあった。デイリリーというのは、ヘメロカリスのことで、鮮やかな花が咲くのだが1日で萎んでしまう。そしてまた次の日には美しい花が咲くのである。
この花の品評会で、いくつも賞をとっていた。ただ、イーストウッドが花をハサミでチョキンと摘む様は、なんともそぐわない感じがした。彼、やっぱ、こんな園芸などなったことないとおもうがね。
家族の事は何も顧みずにほとんど家におらず家族からも放り出されたような男であった。
妻はそのことで極端に悩み辛い人生を歩んでいた。彼が家にいてくれたらどんなにか幸せな家庭が築けたであろうか。だがそんな時間はもう帰っては来ない。妻も娘たちももうすっかり諦めてしまい、会うことさえ拒否し、心を閉ざしていた。
この映画は淡々と進んでいく。半分以上がただ淡々と老人のゆっくりした動きと肉の削げてしまったイーストウッドの肉体が、うろうろと動く、と言う単調な安心できる映像であった。
安定感のある枯れたイーストウッドに、エグいことはできないだろうと、思って見ていた。
後半は、
実は園芸の温室農場は、借金のかたで取り上げられていた。
ショックを隠してバーにいたかれに声をかけてきた男がいた。物を運ぶだけで大金が手に入るよ、と言うのだった。そんな楽な仕事があるならやってみたいと思う。そしてついにその仕事を引き受けることになった。だが、それは麻薬組織の怖い仕事であった。運ぶ荷物の内容は何も知らずにただ目的地へ運ぶだけの単調な仕事である。だがそこには大きなマフィアの組織が横たわっていたのだった。
そして常に監視されていて、一度入ったら逃げることもできないような怖い組織だったのだ。
たった1人で無事故無違反の老人が車を走らせる。全く目立たない彼であった。だからこの仕事は適任であった。時々、警察に止められるも、彼は知恵で乗り切り、老人だからと、疑われずに、見逃されるのであった。
何度も運ぶうちにお金ができて、農場を買い戻したり、行きつけのの退役軍人施設のレストランも補修して喜ばれた。
つにはマフィアのボスに招かれて、ものすごい豪邸で酒を注がれ、群がる美女と遊ぶイーストウッド爺さん。
信用された彼は、だんだんとコカインを運ぶ量が増えてきた。
警察も前から目をつけていたので、とうとうこの組織が警察から検挙されると言う寸前まで来ていた。
最後の大物を運ぶ途中で娘からの電話があり母さんが死にそうだから、すぐに帰ってきて欲しいと言うのだった。
麻薬を運んでいる最中に家に帰ってしまうなどと言う事は危険なことであった。多分見つかったらマフィアに殺されてしまうだろう。しかし危険をかえりみずに彼は家に帰り妻の最後を看取り、葬式も終えたのであった。
家族を顧みずにいつも1人にしていた妻に対して申し訳なかったと詫びる彼。妻はそばにいてくれるだけで本当に幸せである、と言って死んでいった。
そのあと車を再び走らせた彼。
とうとう警察に捕まってしまった。裁判でも有罪になり監獄に入った。本当は弱い老人を食い物にした事件であると弁護士は弁護したのであるが、彼は自分が有罪であると言って自ら監獄へと入ったのである。
監獄の庭園にある花を世話をする彼であった。家族たちもお互い認め合い彼の農場の世話をしっかりやるから安心してほしいと彼に告げた。
100歳まで生きたがる老人は多分99歳の老人だよとジョークを飛ばしたイーストウッド。
彼が自分自身の人生を本当はどう思っているのかは知る由もないが、今まで作ってきた映画とか見ているとあまりピンとこないものが多い。後悔も多いであろう。敵も多いであろう。だがこの歳まで生ききった、走り抜いた者勝ちである。
自分の命をはかなくうつくしいデイリリーに見立てていたのだろう。
年齢から言って、彼も、もう無理はできぬ年になっている。