スッポコ谷の楊貴妃

もうすでに還暦女子。すっぽこだにで瘀血と戦ってます。ホテルの換気扇が嫌いすぎて旅行できないのが悩み。

バベルの塔のタヌキ   安部公房  壁の中の一片より。

ある日、いつものように、公園でぼんやりしていた主人公の僕、自称「詩人」、は変な動物に影を引っぺがされて、出来事は、実は詩人1人の独り言のようにもきこえてくる。

影を持ち去ったその狸のようなケモノは、とても素早く、追いかけたが悪魔のように素早く逃げてしまった。

影は、僕にとっても何にも役に立たぬものなので、要らないやと思ってしまった。

ところがその後、体全体が透明になっている事に気がつく。ただ。目玉だけが残っていて、ギョロリと光って浮かんでいた。このような訳で、警察や、国家から宇宙人か幽霊か、不審者かと、追われる身になった。

狸のような毛むぐじゃらの獣は、高い空の上で、わらいながら、彼をながめていた。取らぬ狸の皮算用という言葉から、この動物を「とらぬ狸」と名付けた詩人であった。影を取り返す為に動き出した彼であった。

バベルの塔へ行こう、きみのたっての願いだからね。」バベルに行きたいなどと言った覚えはない!しかし、

タヌキは彼自身であると、薄々気づく詩人だった。詩人の性欲や、女性の足フェチで夢を見る癖など、タヌキは、彼の内部を知り尽くしているから始末に悪かった。宇宙に漂う柩(coffin)が見えたー影がないということは、生きていないという事?透明なのは、リルケや、ヴァレリーの如くに透明性のあるすばらしい詩人として認められたからなの?色々な疑問の中で、特に、彼は未来的に、生きて行けるのかどうかや、彼の存在の意義をしっかりとしたものにする為にこのバベルの塔に向いながら、数式とか、理論のように置き換えて考えて、形而上学的にでもいいから自身の存在を肯定したい彼であった。

彼は影を失ってから、影の研究も密かに行なっていて、ある程度の論述まで辿り着いていた。だが、結局、発表に至るということもなく、生存と影、影の独立など数式で表そうとしても到底難しく、理解されないだろうなものであった。詩人は発表はあきらめて、恐怖に打ち勝ちたいとだけ願った。バベルには、美術館があって、女の体などが多く飾られていた。それは臆面もないものや、やたらに隠したものやら様々である。タヌキが追いかけて来たので急いで美術品の中にある穴へと身を潜めるーそこは意外にも深くどんどんすすんでいる間にネトネトした管の中のような場所へとはいて行く。とうとう究極まで着いたのか。

突然にも大きな爆発音がきこえたーあたりが白く光り…。

 

コレは「壁」という、安倍公房の芥川賞の文の一部である。緻密で、くどくなくて、正確な言葉の選び方など、文体自体が美しく、ぼんやりとして、贅沢なリラックス感がある。

身体の部分部分が絵のようにクッキリと映し出され、しかも全く不快感がないのは、それが科学的真理に基づくものであり、すなわち、身体は神の作りたもうた物、神の作品であると訴えるに不足はないだろう。