スッポコ谷の楊貴妃

もうすでに還暦女子。すっぽこだにで瘀血と戦ってます。ホテルの換気扇が嫌いすぎて旅行できないのが悩み。

再び 過去の庭にて

50年以上も前のことだったー散歩の途中、近くなのに知らなかった、こんな場所に大きなお庭があったなんてーこれはきっと私のために造られたものかもしれない。きれいな草原(クサハラ)のようだが、ここはある意味 庭の作りになっていると直感。石もあり、池もあったような、なかったようなーあまりに前のことなので、思い出がかすれている。ただ どっしりとして大きいのに、不思議な調和があった。

それからは毎日のようにそこに入り浸った。唯一心が解き放たれる場所だった。学校が終わって夕暮れになるとコッソリ出かけてはそこにお邪魔した。今になって知ったのは、そこが個人の庭であったということだー所有者がいたのだ。当たり前のことだが。ファンシーに考えてしまう癖は昔からのことであった。ずけずけと入り、草を検分、花を検分、石を検分、また山につづく小道を検分し、行ったり来たりと、忙しかった。面白く、どこにもないような造りの庭園であった。

聴くと、それはある大きなお寺の庭の跡地だったという。江戸時代。庭も大きいので、寺も大きなものだったのだろう。これらのことはつい最近聞いた事実だった。

裏山を段々に削って長い小道をくねりくねりとつけて、段の側面を石垣で固めてあった。そこは、白い山すみれが咲き誇る小道で、とても美しく夕方になっても浮き出ているように見えるのだった。

高級な庭であったー多くのお金を注ぎ込んだ庭であろうことは一見してわかる。

それなのに人口的に造ったように見えないところがすごいと思った。自然のままのような庭。

さあ早く!すみれを摘んで、さあ早く、スミレを集めておいで!あたかも何かの衝動いや、そう聞こえたように、もう必死になって口をぎゅっと結んで摘み進んだ。

急に辺りがシーンとして、薄暗くなったーと、5時の鐘が何かキンコンと聞こえたようだった。もう夕方だーさあ 暗くなるまでに帰らなくては。立ち上がってお土産につんだ白スミレの場所に行ったが、

アレ?それはもうどこにもなかった!すみれはお土産で、これを家のおばさんに持って帰って見せるつもりで得意になっていたのにだ。サヨナラすみれー50センチの大きな白い花束。山の小道を二、三回も行きつ戻りつ捜したのだが、それはもう二度と見つからなかった…。

その場所は、じつは現在もそこにあり、もはや頑丈な高い塀に囲まれて垣間見ることさえできないのである。