スッポコ谷の楊貴妃

もうすでに還暦女子。すっぽこだにで瘀血と戦ってます。ホテルの換気扇が嫌いすぎて旅行できないのが悩み。

逆襲される文明  塩野七生著  2017年

色々なエッセイを日本に発信し続けてきた塩野女史であるが、コレもそのエッセイの一つである。エッセイふうに書かれているため、新聞の社説を読む様な軽い雰囲気で読むことが出来る。

移民に苦しめられるイタリアや、ヨーロッパの国々、未来の日本でも、こうなる可能性がつよい。ボロい船に乗りボロい服をまとった命懸けでやって来る移民の人々に、日本は対処できるのかと、心配している。イタリアでは失業率が高いのだが移民に職を明け渡すべきかどうか。

ギリシャも今や経済が破綻して以来弱っているが、過去のギリシャは、ソクラテスプラトン、などの哲学者を生み、そもそも、ヨーロッパという名前もギリシャから生まれた概念、言葉であるのだ。フランス語イタリア語、ドイツ語など、ギリシャ語から派生してできた言語なのだそうだ。

昔、オリンピックをローマの皇帝に止められてから、急速に弱ってきた国である。

この国はヨーロッパの始祖であるので、滅してはならない大切な国である。ポリス、民主主義の主な産業もなく、観光業にのみ生活の糧を求めている様な国である。何卒ヨーロッパ中で保護して日本の京都のような位置に持っていってほしいと願う著者である。

日本は特殊な国であり、独自のやり方を持って自立しなければならない。農業、工業と、独自に対策を盛り込んで、あまり輸入に頼らないでも国民が食べて行ける様にと、周囲を気にせず、自分たちのやり方を実行してゆかねば、いつまでもよその国に依存し、顔色ばかりうかがう国となってしまうかもだ。それはおぞましく痛ましい結果になりはしないか。

子供ができると、お宮参り、人が死んだらお寺で拝み、結婚式は適当な好みで行う、コレほどあからさまに統一性のない宗教を持つ国民もいない。世界では「一神教」のために、古くから戦って来た歴史を持っているのだ。例えば十字軍とか。コーランの暗記とか。

西欧のそれぞれの国民性も面白い。快活なユーモアのイギリス、どっかの誰かに騙されてからは用心深く優柔不断のドイツなどなどだ。

問題が山積みであるのに、一向に解決に向かわない不甲斐ない日本に喝を入れた形の女史であった。

塩野はなんか、歯切れの良い漬物、イヤ醬油せんべいの様なおばさんである。ピリッとしたことを言うのだが、ちょっとお人好しでもあるのか、間抜けな感じさえ感じる時もある。こんなこと言うのは失礼にもほどがあるが、それ故に愛着を感じるし、事実無根な事は言わないだろうと信頼できる気もするのだが、いかがであろうか。私は、本当は、イタリア式の嘘に騙されているだけなのかもしれない。どちらにしても実生活のなかの息継ぎが感じられる様な楽しい語り口である。

 

私ときたら、毎日マルテの手記の、あの薄汚い老婆や、神様の話の、神はなぜ貧しい人々を作ったかを思い出すようにしている。老婆が手に持ったちびた短い鉛筆や、食べる物や着る物もない様な暮らしの人々、彼らのシャツさえも神は奪おうとしていた…。だが、結末はまだ早い!騙されて死んで行った者たちの為に、私は祈りたいとおもう。花柄の薄い布の様に…。