なんと言っても浪花千栄子の演技が見たくて、祇園囃子を見たんだ。この時代、まだスッポコも生まれていないね。白黒のフィルムです。
なんか悲しい話よね。京都の色街で、舞妓になったばかりの若尾と、その面倒を見て可愛がる姉貴ぶんの小暮。二人で旦那を取り合うという話かと思いきや、妹分の若尾のやった不始末を小暮が後始末するという人情話。
若い若尾文子は、とても綺麗。小暮は人情に厚いお姉さん役。
会社の社長、政治のお偉いさん、嫌なお客にも笑顔を振りまき、体を求められても、上手に付き合う。
この様な枠組みの中で、
慣れないお客の扱いで、大きなミスをする若尾。個室で迫ってきたお客の唇を噛み切り、大怪我をさせてしまったのだ。おかげで、祇園で、仕事がなくなり、二人は干されてしまった。色々あったが、
それでも祇園囃子の聞こえる街で、煌びやかな美しい着物と、白い化粧とで、涙を拭き生きてゆく二人であった。お祭りももうすぐそこまでまで来ていた。
そんな祇園を仕切っている女将が浪花千栄子だす。舞妓さんの事は、この女将の声一つでどうにでもなった。
何気ない喋り方、要領良く切り出す歯切れの良さ。女ぽいところはほとんどなく、そして何気なく漂う、ドスの効いたヤクザの様な目の色や口元。これが、怖いんだな。
この女優さん、何者?という感じである。
古くて変なおばさんと思っていたのだが、能面のような顔から、現れる怨念のような空気が人を引きつけてきたのではないだろうか。
中村錦之助の宮本武蔵五部作に出演の折は執念で武蔵と女を追いかける最悪ババアを演じた。
だが、なぜ、この人は色気を消してしまったのだろうか。一度結婚したが、離婚している。浪速は、このことで、よっぽどの痛手を負った。何もかも失った様な抜け殻の浪花。男運は良くないようだ。
だが、浪花は負けないで頑張った。家を捨てた彼女のこれが、この人のやり方であり、演技であったのだろう。色気を抜いた女優に徹するという厳しい道を選んだのだ。それが吉とでて、一流の女優として認められたわけだ。
これはよほど勇気のいることではないか。女を捨てて、芸を取った。
子供の頃から貧乏で、苦労が多かった。子供ながらに、何か思うところがあったかもしれない。
お金に対する嗅覚も普通ではなかったと思う。美しさでは勝負できない、ならば、自分で道を探して売れる女優になるんだ!と、思ったんじゃないかなあ。美しさで競っていたら、とうに消えていたであろう。
「水のように」という人生を描いた著書もある。
日本には珍しいだろう。とにかく不気味さの漂う女優さんである。