班女という名目にちょっと抵抗を感じる気もするが、中国の故事にちなんだ名前である。
いつも美しい扇を肌身離さず持っている女のことだが、別れた男と、扇を交換して以来、そのまま会えなくなって、恋の病に悶える日々であった。
遊女として店に勤めていたが、気が落ち込んでサッパリ働かなくなって、店を追い出されて、放浪する。
凄い姫の様な格好の着物を着て遊女らしく派手ないでたちのままである。
衣装は素晴しかろうが、この演目はけっこうむずかしいなあ、とおもう。
ただ男を待つばかりの女って、退屈すぎて、いろいろ雑念が起こってしまう。
この能で、禊を期待すると、とんだことになる。
季節の歌を詠んでは儚い恋を嘆いてばかりの女であった。
こんな自己中に思える女でも、一途な気持ちは報われて,とうとう、恋人のハンサム男に巡り会えるのだった。
狂女とあらば、その舞を舞ってみよと、男の使いに言われて必死で舞う。
自己中なので、あまり感動はせぬが、歌の美しい流れには季節感があり、月、萩、風、夕顔など言葉の使い方に感心してみていた。
そのうち扇を見せよと言われて、この大切な扇は人には見せられぬ、と拒んだのだが、立派なハンサム男がどうしてもと言うのでとうとう扇をさしだした。
この一瞬に、お互い深く抱き合った様に見える仕草が凄い。ほんの一瞬のことであったのだが。
だいたい能の人達は抑えた恋や愛の情をうまく操って見せるのがうまく、手足膝の動きがとても感情たっぷりにしなやかに動くのが不思議である。
二人ともに、これはあの相手(妹背)であった、と瞬時で覚ったのであった。
嬉しさに満たされて、ハッピーエンド。
舞台は楚々としてとても静かに終わる。