スッポコ谷の楊貴妃

もうすでに還暦女子。すっぽこだにで瘀血と戦ってます。ホテルの換気扇が嫌いすぎて旅行できないのが悩み。

こころ  1955年  市川崑監督  夏目漱石原作

夏目の最高峰の作品だと思うーこのような作品は日本にはほとんどなかったはずである。外国にもあまり見かけないぐらいのすごい作品だと思うのだが、何しろ影のように暗い内容であるから、ネクラの大先輩と言える。

先生 (森雅之)は教養も高く、青年の求めていた理想の人間だった。多分、鎌倉の海なんかで出会ったのだろう。先生の物静かで理知的な雰囲気に憧れさえ抱いて知り合いになった青年の語りで進む物語。

下宿屋のお嬢様を奪い合ったエリートのエグい争いがあった。野淵先生と、梶せいねんの2人は其々の思いを突き詰めて自己を砥ぎ澄まして、この恋に賭けるのだった。 ご存じのように梶青年は、原作ではKと表されている。kはお寺の息子であり。日頃から悟りを極めるためと自己をいじめ抜いていた。そうすることで欲を絶とうとマジで考える純粋な青年であった。彼は先生よりよほど貧乏であり、片意地であった。

そんな彼より全てが上だと思っている若き日の先生はワザと嘘をついて学校を休む。Kの留守の間に、大急ぎで

お嬢さんと結婚させてくれと、彼女の母親に頼みこんだ。あっという間の出来事であったが、この企みが先生の一生を狂わせた。こういう悪事は何故か引き返すことが出来ないようになっているものだ。実際に先生は素直に自分の罪をだれにも言うことが出来なくなったのである。

お人好しで田舎者のKをまんまと出し抜いて勝ち取った虚しい勝利であった。お嬢さんと先生はめでたく結婚するが、 いつも浮かない顔の先生であった。何かいつも思い詰めており、それがなんであるか誰にも教えない。高く評価されているのに外での仕事は一切せず、うつろな目、不安をたたえた目、自信のない消極的な目、毎日毎日一緒に暮らす妻にとって無言の拷問とも言うべき雰囲気をまとった先生であった。夫としては余りにも下劣な存在であった。犬畜生にも劣る存在と言っても良いだろう。奥さんはだんだん鬱病のように思い悩むようになり、何が原因で夫がこの様になったのかがわからず苦しむのであった。奥さんは、Kの純粋で朴訥な人柄を好いていた様なところがあった。実際二人が楽しそうに歩く姿も目撃している。結婚前の事ではあるが、先生は決してkにだけはお嬢さんを取られたくなかったのだ。その嫉妬が、彼やKの人生をことさら大きく狂わせ悲劇へと転じてゆくのである。

 

幼い頃、里子に出された夏目自身の苦労がしのばれる。着々と人間不信の目を磨いてきた漱石先生であった。小説が苦手な人でも、この映画なら原作と釣り合っているのでオススメですね。

 過去にも、同じ様なこと書いてますね、ワタシャ。ネタ欠乏じゃね。