なかなか良く出来ている能楽なのではないか。
なにせ、主題も美しく、花筐である。
片田舎で暮らしていた皇子が、急に、都で、天皇に即位するということになり、慌ただしく、迎えの従者らと田舎の邸宅を出て行ってしまった。
仲良く遊んだ腰元の照日の前(テルヒノマエ)という女は皇子を慕って、都へと後を追いかけて行く。
王子と一緒に花を摘み遊んだ花筐を、召使いに持たせて、慣れぬ路を尋ねながら歩いて行く。
心に思う面影は、もはや届かぬ天皇となられる王子のことのみであった。
そして、恋い慕うあまりに、気の狂った女のようにも見えるのであった。
とうとう、王子の一行に追いつき、会わせてほしいと頼んだが、断られる。
私はテルヒノマエといい、王子もご存知の親しかった女です、と説明したが、あっちへ行けと、断られる。
辛い女は、保ってきた花筐を差し出し、これがその証拠の物というと、これはなんと、どこで拾ったのかといわれる。
どこかに捨ててあったものを取ってきて、王子の花筐だなどという、とんでもなく、恐ろしいことを企む無礼な者と言われてひどくあしらわれた。
かなしみ、うろたえるテルヒノマエであったが、舞ったり歌ったりしているうちに、皇子がカゴを見せなさいと言ってきた。
よくよく見れば、確かに田舎で遊んでいたときの花筐であった。
照る日の前は許されて、都で天皇になってからも、お仕えしてもよろしいということになり、
なんと嬉しいことよと、舞うのであった。
美しい足さばきが、素晴らしく独特であった。
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