スッポコ谷の楊貴妃

もうすでに還暦女子。すっぽこだにで瘀血と戦ってます。ホテルの換気扇が嫌いすぎて旅行できないのが悩み。

求塚 能楽 観阿弥世阿弥

塚を求めて、彷徨う女の亡霊が主人公である。

 

ある僧が連れ立って、神戸の辺りの、生田川に差し掛かる。

旅の途中とて、この辺りの様子を聞こうとしていると、若い女たちが、この春の野辺で若菜を摘んでいる。美しい白い絹のふんわりとした着物に、竹かごを持って麗しき乙女達。

まだ雪も残る早春であり、聞いてみると、一人の若い女がいろいろ教えてくれて、塚のある野原へと案内した。

このような野原に塚があるとはどうしたことか。と不思議に思う僧たちであった。

辺りの人に聞いて見ても、誰も知らぬと行ってそっけないものだった。

だがこの女は、何か曰くありそうな様子であり、救ってほしいと僧侶にすがってきた。

朗々と謡う僧や、乙女の霊、真宗のお経を聞いているような節回し。

 

この若い女は、昔、二人の男に熱烈に求愛されたのだが、二人のどちらを選ぶべきか、困り果てたのだった。

家は生田川のすぐほとりにあり、水鳥が遊んでいる。

あの鳥を矢で射抜いた方と結婚すると決めたが二人の矢は、同時に鳥を射抜いてしまう。

恋文も同じ文面の物が届いたのだった。

このような事を繰り返すうちに、娘は、何か怖い因縁を感じ、押しつぶされて心がおかしくなっていった。

 

ある日、ちょっと一人にしてくれと親にも頼み、そうしたうちに、家の前の生田川に身を投げて、死んでしまった。

この世が嫌になり、生きていても辛いから、生田川に入水して果てます。

生田川という名は生きると書くが、意味のない虚しい偽りの名前であった。と言い残した。

二人の男も、驚いてお互いに刺しあって、同時に果てたのだった。

 

あの世に行ったものの娘は八大地獄を彷徨い続け、灼熱地獄、叫喚地獄、水地獄、と息をつく暇もない。

これはなんという宿命の恐ろしさであろうか。

水鳥を殺し二人の男の命をも私が奪ってしまったのだ。

 

僧よ、何とか私を助けてくださいと言うのだった。

 

僧の見守る中、女の亡霊は、自分の塚を求めて、彷徨い、塚を見つけて、その中に入って収まるのだった。

そうすると、霊は何か安心したのか、鎮まり、塚が自分の住処である事を悟るのであった。

 

何故に、この若き女は道を間違えたのか、または二人の男は何ゆえに、この女に取り付いたのか。

全く不思議な因縁である。

 

生きていると人間というものは、ふとした弾みに、恐ろしい地獄に踏み入り血迷う生き物であると、

我々に教えてくれるこの能楽である。

迷うとキリがなく、疑うと、キリなく、欲望もまたキリがない。

天国も地獄も紙一重で区切られているようだ。

 

 

 

 

 

求塚 (観世流特製一番本(大成版))

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