スッポコ谷の楊貴妃

もうすでに還暦女子。すっぽこだにで瘀血と戦ってます。ホテルの換気扇が嫌いすぎて旅行できないのが悩み。

十三夜 樋口一葉

この話は、にごりえのように、死んだりしないよ。

家が貧乏で、家族のためといって、お金のために、結婚した女がいた。

良いところに嫁いだと思ったのは、ほんのつかのまで、今では、横暴な夫からDVを受けるようになっていた。

耐えきれずに、子供を残して、里に帰って、両親に、あの家からのがれたい由を切々と話した。

あの家からは、お前の弟の学費を出してもらっているのだ、こらえてくれ。辛抱してくれ、

それに幼い息子はどうなるのじゃ、と諭されて、トボトボ、夜道を帰っていった。

どうやってあの恐ろしい家で今後も耐えられるというのだろう。

 

ところが帰り道で、人力車をひろった。

乗ってみると、車夫は、知った男であった。

昔、恋をしていた男の横顔、今は車引きだが、昔は、小綺麗なタバコ屋のぼんぼんであった男だ。

お互いに憎からず思っていて、若い頃の、淡い恋のときめきを感じていた。

 

だがなぜ,あのボンボンが、こんな車引きになってしまったのか。と、内心、驚く女であった。

飲んで飲んで遊んで、とうとう財産を食いつぶしたそうだ。

見たのは、哀れな男の転落人生であった。だが女にも辛い結婚生活から逃れられない人生であった。

恋人たちが、数年後に会って、お互い転落してたら、ほんと残念やろうねえ。

 

本当は、嫁に行ったこの女を恋しがって、遊び暮らして忘れようとしたからの顛末であった。

やわい男だのう。バカの見本だ。ま、物語だからね。

 

男も、女も、もう別の世界で生きていた。男はしがない車引き、女は辛い結婚生活。

どっちもどっちだ。

 

 

 

これが本当の最後のお別れね。そう思いつつ、二人は、そこで、その道の上で、別れた。

なんとも言えぬ、寂しい別れである。

 

空には、十三夜のまだ満月になりきれぬ月が、力なく掛かっていたのだった。

 

 

十三夜

十三夜