スッポコ谷の楊貴妃

もうすでに還暦女子。すっぽこだにで瘀血と戦ってます。ホテルの換気扇が嫌いすぎて旅行できないのが悩み。

花盛りの森 三島由紀19才(1944年初出版) 花盛りのの森短編集1968年出版より

三島が19才のときに書いた作品として特別視されがちだが、まあ気楽に読むことだ。しかも終戦1年前という際どい時期である。あえて誰にも読まれなくてもよいという初々しいハニカミの気持ちがあっただろう。大正14年生まれの彼は、いや大正生まれの人は、思いつめたらもう一直線。筋金入りの頑固者。さて、

夫を看病しながら、新鮮な空気を吸いに上の階へと登った夫人が見たものは、日差しのあたる穏やかな山々であった。そこでなにか白い衣を着た人間のようなものが夫人には見えてくる。そしてその人はキラキラ光る十字架のペンダントをしていた。神々しいほどに白いころものひとは、夫人にとっては知らない人ではなかった。「ああ、あれはお母様のしていた十字架なのでしょう。」夫人はそう確信した。
夢か幻か、高貴な身分に生まれた夫人はその半年後、あの世に行ってしまった。
そのような幻想的な心象が言の葉に寄って語られる。いやはや、ぐんぐん引っ張られて読んでしまいました。その他は海の話がおおい。海については御し難い大自然であり、さすがの三島も、後退りしての記述となる。海の魔性にみいられて、人生観まで変わっていった女の性(さが)のはなし。理由づけのできない不思議な心の中の変化を描いている。また華族らしい家のある部屋のことがこと細かく書かれた作品もある。高級な調度品が、年を経て心を持つようになったともおもえるのごとくの部屋。まあ華族の家って、そんなふうなのが多いだろう。自慢であろう。そのような血筋に生まれた三島である。彼の
美意識はとても高かったはずだ。そんなこんなで、このような混沌とした作品も生まれたのである。
しかも19才という若さ。あまりにも早熟すぎたのであろうか。彼は平凡な生き方を、ほんきで模索すべきではなかったのか。文壇の友達で、そのような説教を垂れる人はいなかったのか。 
これらの作品自体は、悪くないし、むしろすばらしい。しかし彼の中では、言い尽くせないなにかがあったのだろう。
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追記・敢えてこのマッチョな写真を載せました。

 

花ざかりの森・憂国―自選短編集 (新潮文庫)

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