スッポコ谷の楊貴妃

もうすでに還暦女子。すっぽこだにで瘀血と戦ってます。ホテルの換気扇が嫌いすぎて旅行できないのが悩み。

青い金魚   :少年少女文学  講談社

奈良県のヤマト郡山市は、金魚養殖のメッカだった。戦争になって少年のお父さんは中国へ旅立ったが、ソ連の侵入で、ソ連の捕虜になり、シベリアの捕虜抑留所に入れられてしまう。

厳しい寒さ、乏しい食事、激しい労働を強いられて、数年間で、多くの人が亡くなった。

その中に、お父さんは入っていない。ーきっと日本にここに帰ってくるだろう!

そうおもいこんで  金魚の世話を毎日毎日やっていた。

父から預かった、ランチュウを持っていて、大切に育てているのだった。

 

台風で養殖場が荒れてしまった時も、一晩中寝ずの番をしてきた少年であった。

貴重な金魚の稚魚などをすくいだしては、バケツにいれた。

お祖父さんも、声を枯らして、必死で指図し続けるのだった。金魚が新しい水になれる為には少しずつ真水を入れて慣らしてゆくのが、また一仕事であった。台風の泥水で、金魚の半分以上が流れてしまったが。貴重な品種を逃すわけにはいかなかった!

 

それでも、ある日、父の戦友から父の死を知ってしまうのだった。

ああ、父のランチュウ、何度もコンテストで優勝してきたが、金魚も、泣いているだろう。

少年は、寂しさと、哀しみで、頭が錯乱したように感じるのだった。

 

それから10年、青年になった少年の家に、青光りする珍しい中国のランチュウが、ひょっこり、送られて来た。

美しい色合いと、飛び抜けて長いおひれが、とても美しかった。

こんな金魚は初めてだった。  誰が送って来たのか?

 

ふっとお父さんのことを思い出したが、お父さんの死を知らせた戦友からの贈り物であったと判明した。

あの時、気が狂ったように苦しむ少年のことを、彼は、忘れてはいなかったらしい。

 

この金魚はどうやってそだてていくのか。ますます仕事にせいを出す青年は立派な金魚屋になることだろう。亡くなったお父さんから託されたことを叶える為に。