夕方暗い頃に誰かがリンゴを持ってきてくれた。竹のザルに入った沢山の青いリンゴだ。
これわてさんの誕生日のお祝いにと、持ってきたもんですが。と言っている。
わての誕生日?そうなのか、10月の遅い頃のリンゴは綺麗な黄緑色だった。これが噂のインドリンゴというものかなあ。香りが良くてうまいという。。でもリンゴの木なんてどこに生えているんだい。
小さいリンゴだから店で買ったものではないしな。
しかし今日わての誕生日?わての?と聞いても誰も返事してくれない。
でも誕生日の贈り物だったら、わてのものじゃないか。食べてもいい?と尋ねれば、いや、ダメだ。
食べるなよ、このリンゴは酸っぱくて食えんのだから。食うなよ、食ったらいかん、一口もダメ!
えっ?何故自分の誕生日のリンゴを一口も齧ることができないの?!驚きだわさ。このリンゴにどんな秘密があるっていうの?
「わてはまだ小さい。こんな小さい子供のために、リンゴを持って来てくれる人などいるはずもない。
どうりでな、お誕生日のリンゴだなどと、
きっとわての聞き間違いだったんだろう。」
それにしても、本当に不思議なきみどりいろのりんごだった。その娘さんは、数年後にお嫁に行ったと聞いたが、本当だろうかと気になった。