スッポコ谷の楊貴妃

もうすでに還暦女子。すっぽこだにで瘀血と戦ってます。ホテルの換気扇が嫌いすぎて旅行できないのが悩み。

アレキサンダー大王

1982年  アンゲロプロス監督

とても不思議な作品なので、なんと言って説明すべきか、けっこう難しいのである。
もはや神話とでもいうべきアレキサンダー大王のものがたりである。というか神話のような、日本でいうなら幽玄能とでもいうのか、または古事記の時代に吹いた遠い昔のにっぽんの風の匂いか。
とでもいうような掴みどころの無い話でもある。
しかしプロットはある。アレキサンダー ザグレートは、義賊であり 自分のことを大王だと名乗っているが 誰もが信じているわけでは無い。だが信じられる証拠もあった。遠い紀元前からやってきた王様
であった。かれは元々孤児であり、ある日村に忽然とやってきて 大人になる。そして義賊の頭領になり、略奪 殺人  誘拐などをしてゆく。すごく忠実な部下達がいて王は何も何も一言も喋らないが、王の意志を伝えていく。ほとんど何もしゃべらないのがすごいとおもう。監獄から抜け出して、コローもビックリな深い森の中で白い忠実な馬にまたがる彼である。
イギリスの貴族達を誘拐した時は、イオニス岬のポセイドンの神殿で日の出を見て、古いギリシャの詩を吟じていた貴族の前に海の中から忽然とアレキサンダーは現れた。貴族達は、きっと彼は本当の王ではないかとおもったほどおどろき慄いた。王が育った山の谷間の村に連れて行かれた。人質の目的は、イギリス王国に部下と自分達の恩赦を請求するためであった。イギリスは軍隊を送り 、谷間の川辺で裁判もひらき、公平を期そうと焦ったが、所詮俗人の浅はかな考えであった。人質のイギリス貴族らは、また例の詩を吟じて、裁判官らに、王は本物の王であることを伝えようとしたが、イギリス人達は、「I don't understand! 」と言っている。詩を吟じる貴族の声は、感動でふるえ、アレキサンダーを崇拝していることをあらわしていた。まあ、一番のクライマックスかもしれない。
思うに、王が本物であろうとなかろうと、彼等の谷でのくらしは超俗なものであった。
ひどくシンプルで、世知辛いヨーロッパの文化に汚されていない清いものだった。
貴族達はその事に、おおきく心を揺さぶられたに違いない。時計のない生活。歩き方も決して急がず、身体が、周りのものと一体になって同化したような動きなのである。そのようなものを貴族は見たことがなかった。アレキサンダーだってあんなに威厳を保ち、一言も喋らず暮らせている不思議。
それをイギリスの裁判官達に訴えたかったにだろうが。
検事が撃たれ死んで、村人の仲にもアレキサンダーの一味を嫌う者がいて、そいつらも殺される。また現代文化の担い手の代表のようなアナーキストコミュニストたちも村に滞在していたが、一応に殺されてしまう。コミュニストは先生と呼ばれ、知識人であった。彼は王様に言った
「カリスマ性は、いつか滅びていく。おうさまも考え直す時期である。」この先生は、やはり根本的なところで間違っていた。カリスマ性ではない、彼は神秘であり、神話であったのだから…。
     言い忘れたが、この映画は、DVD が二枚組である。一枚目での音楽師の曲はファナティックでクレージーで、赤い血がたぎる様な曲であり、盛り上がる。
最後には賛美歌をうたう修道士達も殺され、みんなを殺していくアレキサンダーであった。彼等は、彼の精神にとって、腐った奴らであり、抹殺すべきものであった。
怒ったイギリス軍は、村を包囲して、バンバンと撃ち、とうとうアレキサンダーも血だらけで倒れる。瀕死の彼を村人が輪になって覆い尽くす。そして、もみ合っているうちにアレキサンダーは、この世から消えてしまう。え?!という展開にあわてる。村に踏み込んできたイギリス軍の見たものは、びっくり仰天といった代物であった。白い大理石でできたアレキサンダー大王の彫刻がゴロリと落ちていて、
彼の流した血糊がべったりとその下に流れていたのだ。
兵隊達は、何か現実的でないものを感じてじわじわと後ずさりして、皆が逃げてしまった。こうして村は守られた。f:id:dekochanya:20160206205841j:image 実はこの聖地の様な村の地下には広大な地下資源が眠っていて、イギリスはこれを狙って、村人を追い出そうとしていた裏があったのである。
受け取り方は様々で良い。スッポコは、王は村人になりすましたのではないかと思った。または、
本当の王であったのか…。
アンゲロプロス監督は「旅芸人の記録」でもアガメムノンという座長を登場させている。これも二枚組であり、おもしろい。また分かりやすい。

 アレクサンダー大王 [DVD]

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