清経は平清盛の子の平重盛の子であった。つまり、清盛の孫である。
栄えていた平氏は、源氏に追われて海での戦いにて大負けになり、海に飛び込むものが多くいた。
清経も、修羅と化した地上を捨てて、海の中へその身を投げた。
彼には、妻がいて、家で帰りを待っていたのだが。
ある日、侍従が、清経のまげの髪の包みを持ってやってきた。
これは彼の最後の形見であった。
妻はなぜ、ここに帰ってこられなかったのか、私が待っているというのに。
こんな髷の形見は辛くなるだけであるのに、と嘆き悲しみ涙が止まらなかった。
従者も説明してもかいのないことと、困り果てるのだった。
妻が悲しみにぼーっとしていると、夢の中に、清経の霊が姿を現わす。
髪は解け、辛そうな面持ちである。長い黒髪を垂らし、表情もなく
戦さの惨劇を語ろうとする。源氏と平家の最後の戦いであった
とても悲惨な戦いで、平氏は追い詰められ、船に乗って波の間を長時間、彷徨い続け、なおも修羅の中で必死に戦ったが、遂に、力及ばず、切っても切っても波しか切れず、なにが何やらわからぬ状態になった。とうとう力尽き、海に身を投げ打った。味方も全滅してしまった。海の藻屑と消え去るのは本当に辛く残念であった!
とても残念だったが、神仏のご加護を強く祈った。
海の中に仏の国を見てたように思った。
いつも神仏を拝んできた私であったから、仏様が助けてくださったのだ。
最後には私は成仏し、幸せの中に仏と共にすむことができて、ありがたい。
だから私のことは心配しなくても良いのだよ。
嘆く妻にそう言って聞かせて、清経の霊はきえていった。後には従者と、妻が茫然自失の程で
清経の後ろ姿を見送るのだった。