スッポコ谷の楊貴妃

もうすでに還暦女子。すっぽこだにで瘀血と戦ってます。ホテルの換気扇が嫌いすぎて旅行できないのが悩み。

江分利満氏の優雅な生活 1963年 岡本喜八 監督

f:id:dekochanya:20160320124106j:image岡本監督は面白い筋書きの映画を作る人だが、エブリでは、普通のサラリーマンの日常を淡々と描いている。社宅に住まう彼と妻と男の子と年寄りの両親の5人家族である。一昔前の平均的かぞくである。この映画は、若い人にはわかりにくいだろう。甘いも辛いも乗り越えてきたあるていどとしをとったひとにしかわからない味わいというものがある。淡々と描くことにより沁みてくるものは熱く強い。

そこに本当の感動がありバカバカしい、平凡な人生が切々とむねをうつのだ。エリートばかりが偉いのじゃない。才能は無くても?一生懸命に生きる者がすばらしいのだ。と瞳は言う。
その当時は、社宅に住むというのは サラリーマンの夢であったそうな。信じられないな。噂の温床の社宅などゴメンだ。サラリーマンになるということは、ほとんど神か仏になるぐらい素晴らしいことであった。決まった収入があるというのは戦争などの不安定な時期を乗り越えてきた日本人にとって、何よりの悦びであったのだろう。何もかもが誰もかれもが、高度成長期に向かって驀進していった。
原作者の山口瞳は1923年生まれで生きていれば93さいになる。これは三島由紀夫より2歳年上ということになる。年齢は同じぐらいだが、三島はすでに天才として名を轟かせていたことだろう。エブリは三島とは土俵も違うが真逆な作品である。それでもそれがおもぃろいと拾われて、とうとう、直木賞をとってしまう。妻も子供も大喜びで飛び上がる。本人は妻に電話をかけるが、興奮で手がふるえていた。
戦争体験もあるかれはもう戦争はゴメンだと心の底からいっている。大抵の人はこれに同感とおもう。
もし、子供が戦争に取られたら、妻も自分も生きてはいけないという。真っ当な気持ちを持っているのが良い。
瞳の出生については色々あって、彼は安寧な気持ちでもって過ごしたことがないという少年であった。彼の両親は、何処かおかしなところがあり、瞳少年はいつも
それに悩まされていた。仲間を呼んで花札などに耽る父。艶かしく退廃的なふんいきをもつ母。
何度も成金になり、何度も破産して借金取りに追われる毎日。このような生活は、子供心にどのように映ったことだろう。大人になった彼は何かを書かずにはおられなかったのではないか。瞳少年は大きくなって大きな会社(サントリー)に入社するのだが、家では自分で小説を書き溜めている。色々考えた結果かどうか知らないが、実はそこで
瞳は、ダサいサラリーマンの生活を描こうとした。取りも直さず自分の事である。なんということのない日常がそこにはある。しかしその記録は何故か胸を打つ。出勤する彼、バーで管を巻く彼、会社からはあまりパッとしない彼、どれを見ても、我々と同じで自分の歩んできた道を振り返っているように感じる。
あまりにも平凡で余りにも当たり前なのだか、そこでも妻や子供の病気とか人づきあいとかいろいろ事件がもちあがるのである。ここも我々の日常とそっくりなのである。
エブリの父には大きな借金があり、エブリの妻はもう笑うこともなくなった。エブリは家族を養い、かつ父の借金を返すという荒技をしなくてはならないのだった。
山口の作品入門として、「キマジメ人生相談室」というのを読んだ。「女中を雇いなさい」という回答に驚いた。そういう時代だったのである。 真面目な回答の直実さには信頼の情も湧く。また、どうすれば小説家になれますかという質問も多い。答え「真似せずに、自分の言葉で書きなさい。」である。
酒を愛したエブリは、管を巻いては部下に迷惑をかける。朝までつきあわされるのだった。妻も付き合った。そのさり気ない内助は美しい。
見終わって感じるのは、サラリーマンという新しい職業への讃歌である。話はつきそうもない。
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江分利満家の崩壊

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