88歳の監督にとって、追憶と、進歩とが交互に現れている。リアリティーのダンスの続編でもある。
度肝を抜くような演出がうまい監督だ。チリの田舎トコピージャから、サンディエゴに引っ越してきた。
父の名はハイメ、母は、喋るときは、必ず歌で表す。二人は雑貨店を営みその店をとても大事にしていた。子供はアレハンドロ、とても可愛い男の子、つまり監督自身である。詩人になることを決めているが、父親は許さなかった。家を出て、放浪するうちに色々な詩人や、若いアーティストに出会い、成長してゆく。
真っ赤な長髪の詩人の女、この女は夜な夜な現れて彼を誘惑する。激しい気性を持っていた。
彼女と別れた後は、別の芸術家の家を訪れる。
そのアトリエには、世にも奇妙な人々が暮らしていた。詩人と仲良くなって、町中を彷徨う。まるで、ランボーとヴェルレーヌの二人旅のようだ。自由に、楽しく、気の向くままに!
芸術家同士の会話もつながった。人生が気の狂った夢ならば?
それに誰にだって、恐ろしい人生の口が開いていて、と、スッポコは思う。
だが彼は、どこまで行っても、自分のアイデンティティーに出会えなくて、苦しんでいたのだ。
愛も何物も、与えてくれなかった父親が、いつも、彼の行く手を阻んだ。心の中で、侵食が起きていた。
自分は何者か?なんのための存在か?悩やましい悩みに追いかけられたり、追いつけなかったり。
かつての赤髪の女の元彼のところへ会いにいくと、彼はお固い教師になっていた。
君も、そろそろ、真面目に働きたまえ。
彼は、みんなと別れて、フランスに行くことに。
父親が、波止場に来ていた。「行かないでくれ!野垂れ死する気か。フランス語も知らないお前」
実は父と息子はいつも食い違い、幼い時からボタンのかけ違いを起こしていた。
それ故に、アレハンドロは、自分が分からなくなっていたのだ。
「父を許して、父と和解しろ、お互いの仮面を脱げ」
そうして彼らは、海風の中で真に抱き合い、親子の永遠の別れだとお互いに知ったのだった。
老いることは恥ではない。老いることは恐ろしいことではない。と、88歳の監督は目をキラキラさせて言う。芸術をこの世の人々に見せたいのだ。 今、芸術を見ているのだと。
老いることは素晴らしい。お金からも、しいては自分からも自由になれることなのだから。
子供の頃の夢や純粋な気持ちを大切にしてね、と。