お母さんは死んでしまい、小学一年ぐらいのかわいい男の子と獅童のパパとの二人暮らしである。
パパは発達障害で、家事が下手で、焦げた料理が多い。部屋の片付けも得意ではない。
ママが生きてた頃は、綺麗に整頓された部屋で、おいしい料理も食べれたのだが、今は真反対の生活をズルズルと引きずっていくしかなかった。
パパは司法書士の事務所で、働いていた。
「梅雨になったら、ママは帰ってくる。」そう言って死んでいったママ。だから二人は、それを信じて雨を待っていた。
ある廃屋に出かけるのが、二人の休みの日の日課であった。
其処で、ママにそっくりな人が座っていて、記憶喪失で何も覚えていない様子であった。
二人はその人を家に連れて帰った。そうして一緒に暮らし始める。
美味しいお料理、部屋のお掃除。まるで昔にかえったようなすてきな生活。
でもその人は、パパのことも、かわいい子供のことも何も覚えてはいない。だが、母親と妻であるかのように振る舞ってくれるのだった。
しかし梅雨が開けた時、その人は帰ってしまう、行ってしまう。その事を知っているパパと子供であったのだ。
辛く儚いシアワセ。でも死んでしまったママに会えた。ママは約束どおり帰ってきてくれた。
神仏の計らいなのか、幻影なのか。
梅雨明けの最後の日、廃墟に三人でお出かけした。お決まりのように。
その日がついに来た。その廃墟で遂に、女は何処かに消えて行ってしまった。霧のなかに。雲の中に。空の彼方へと。この日がくることは分かっていたことなのに。でもやはり悲しい。子供は大声で、母を呼んだ。
夢だったのだろうか。でもその夢がどんなにか二人を勇気づけただろうことは、計り知れないのだった。
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