審判は少し長い物語風になっているが、カフカはこれに耐えてよく書いている。複雑な階段のような作りの作品で、裁判官はじめ登場人物がまるで夢のような人物ばかりで出来ている。現実味がないというか、メルヘンチックというか、しかしさもあらん、というような人物ばかりで成り立つ劇のような小説だ。
想像上の生き物と言った具合だ。あまりにうまく書かれているために、おバカな私たちにも容易にその人物の姿が目に浮かぶのだ。
カフカは言っている、審判とは関係ないが、名言である。「人は死んでから、どういう人であったかという事がはじめてわかる」と。
私はこれにとても感心している。さて審判の人物はさもしく、いい加減な奴らが裁判するので、彼も当然良い結果を得ることができなかったのである。この雑多な人々の性格は、怠惰、色好み 色情、嘘つき、残酷など悪い性格ばかりの人が登場しては、、人のよい主人公をより悪い立場へと導くのだった。しかもそれは彼らの性格からくる虚偽であり事実に基づくものでは全くなかった。アリスの不思議な国のようにファンタジーの発言なのであった。もっともこの裁判長が一番ワルで、裁判中に彼が読み耽っているぶ厚い書類は唯のエロ本であった。主人公は判決前に散々苦労してこの裁判長に面会を懇願して来た。面会にこぎつけて直接直訴しようとあらゆる努力を惜しまず自分の無罪を訴えて来たのにも関わらず。
多くの人に騙され、貶められて、罪人として仕立てられてゆく過程が余りにも異端的、斬新的すぎる。