ヨーロッパ全体の歴史において、ユダヤ人大殺戮は、どのように始まって来たのか、その前哨戦として、どのような準備が行われていたか、を、検証しようとしている。
これを、悪い意味で、全体主義と言い、全部の人々が、誰かの種を拾って皆が洗脳されたような状態になってしまうことー麻痺した思考の中で、行われる数々の大殺戮があった。
身近なところでは、クラスのボスがいて、あの子をいじめようと指令すると、クラス全体が一人をいじめるようになる、のに似ている。
テロとは、攻撃で邪魔者を攻撃するだけだが、全体主義は全土を覆う霧のように広がってゆくものであるという。人々の心を操り、反抗できぬようにされてしまうのだ。そこで主権を握ったものはヒトラーのようにどんな酷いことも容易にやってしまえるのである。
ある意味この本は怖い人間心理がもられている。
フランスのユダヤ人将校ドレフュス事件では、大虐殺のリハーサルであったと、アーレントは言う。
王政、共和制、貴族、国民国家、を経ていく中で、ユダヤ人は、大銀行をヨーロッパ中に持ち、実質大蔵大臣の様にやって来たのだが、中でもロスチャイルド家が優勢であった。
ユダヤの大銀行がなければ、どの国も上手くやってゆけないのだった。
貴族が解体し、国民国家が、国民の平等を歌いあげたとき、ユダヤ人は頑なに、平等を拒み、自分たちの血、宗教を消そうとはしなかった。そんな中で、固い結束も融解し、ヨーロッパ人に同化していくユダヤ人らが多く現れて来た。混血をしたり、ユダヤ教をやめて、キリスト教の洗礼を受けるものも出てきた。
しかし尚且つ、ユダヤ人は、どの階級にも属することがなく、政治にも決して参加せず 歴史的にも長い間、政治に対しての無関心が続いていた、産業を起こすブルジョワジーにもなれず、ただ血族で暮らす彼らは何者なのか?
イギリスの首相にまで昇り詰めたディズレイリーは、同化ユダヤ人の代表選手であり、文才に秀でた独特なユダヤ人であり、天才と言われた人間であった。彼の元で、スエズ運河の権をイギリス女王は買い取り、次はインドの女王に仕立てた男。ユダヤ人であることを、逆手に明瞭に表明したのだが、表明が強すぎて、同性愛の人々も、そこに参加してきて、社交界は混乱を極めた。
ユダヤ人たちの経済力、交渉力、芸術力はヨーロッパの社交界には不可欠なものになっていた。
政治では、国々を結ぶ交渉力は、ユダヤ人に任されていた。何故なら、国を持たぬ彼らはヨーロッパ中に広がり、連係プレーのプロ達であったから。
何故これほど重宝されたユダヤ人が、標的にされたのかを、紐解こうと、アーレントは、必死であった。あらゆる方面から角度から微に入り細に入り調べて行く。
どこに躓きがあったのだろう?
彼女は、ユダヤ人の女性として、哲学者として 、米国に逃避行して英語でも書き上げた。
ドイツのナチに味方する様になったハイデガーと決別し、アイヒマン裁判を見にイスラエルに向かった。彼女の行動力と信念は、ユダヤ人と全体主義の根源を見つめた貴重な著述である。第三巻まであるが、とりあえず、一巻を読み終える前に、投稿してしまった。
ただ、なかなか骨があり、歴史があり、難しそうでもあるが、ネズミの糞のように汚らしい「全体主義」に対して、軽蔑の念を抱く人にとっては大切な一冊になるであろう。第3巻まである。最初からの緻密な文学的語り口が美しいとも言える。