スッポコ谷の楊貴妃

もうすでに還暦女子。すっぽこだにで瘀血と戦ってます。ホテルの換気扇が嫌いすぎて旅行できないのが悩み。

1722年  ペストの記憶    デフォー作100分de名著より 武田将明

ロビンソンクルーソーを描いた、イギリスのデフォーの、「ペストの記憶」a jounal of the plague year

というものだが、ロビンソンクルソーでキツイ体験をしてしまった私は、デフォーについては否定的な見方をする事がある。あまりにもリアルに描かれたクルーソーが、きみ悪いのである。実は、私自身にそっくりで、怖いほど似ている。この本は絵本で、父が買ってきて、一生懸命話をしてくれた本であった。父も私も似たもの同士だったのだろう。ロビンソンはたった一人で人生に立ち向かう。木をくり抜いてスプーンを作り、テーブルを作り、クワも作り、畑まで作って麦を育てるのだ。

木の上に家を作って住み、ヤギなどを飼い慣らして家畜にしたのだった。

完璧で万能な一人暮らし、この理想的な一人ぼっちが、デフォーの理想だったのか。人間として歪んだ人格の持ち主だなあ。

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実は、私ごとながら、完訳ロビンソンクルーソーなるハードカバー本を、図書館で借り、失くしたのだ。

結局弁償ものである。3000円ちょっとしたが、一緒にしていた1000円の本も見失い、合計4000円の弁償額になった。まあ、デフォー様と亡父の呪いだろう。

 

さて、ペストについても、事細かに書き綴り、ロンドン市民がどのような生活をしていたかが、描かれる。イギリスは通商で、経済が成り立つ国でもあった。

贅沢品は売れなくなり失業者が多く出た。ロンドンのシティでは、上級国民が住み、贅沢な服飾や、家具などが生産されていた。金持ちたちは、馬車を仕立てて、

いち早く田舎へと避難し、残されたのは貧しい市民たちと、政治を司る局の者たちであった。彼らは市民をみすてずに指示を出しつづけた。そこには独特の神の信仰が見られた。

貧しいものらは馬さえ用意できず逃げらずにいた。

町に残った作者にも、召使が逃げ、馬も手に入らなくなった。残る事が、神の御意志だろうと直観し、生死は神の御手に任せたのだった。

大きな失望の時、人はそのようになるのではと感じた。ロビンソンも、絶望の孤島で、一人立ち上がったのであるから似ていると、指摘されている。生死が問われる時、神の御意志ならば、従ってみようということだ。

 

残った市民らの貧しいものは、死人の処理に廻されていた。だがそうでなかったら、町は死人の山で埋まっていた事だろう。

その多くのものがペストに罹患し、死んでいった。

 

気の狂う者も出た。大きな墓を掘り、毎日多くの死人が放り込まれた。

シティとは反対側のイーストエンド東の端に住んでいた主人公は、ペストの流行中心地から離れていた。

作者は、英国国教から離脱した家族で、ユダヤ人らとごちゃ混ぜの東の果ての地区に住んでいたということも大きい。

主人公は何故か町をはなれずに、記録にあたった。好奇心から墓場を覗きに行ったりした。人々の狂気の様を見て、記録して行った。

人が苦しむ様は、ある意味興味深いものだったのだろう。一年ほどか、もしくはそれ以上でペストは収まり、ロンドン市民らは、皆が兄弟のように喜んだとある。

元々、シティーの東の果てに住んでいた主人公は、西から発生したペストに対して、驚異本位で接していた。まずシティの中心地から起こったペストはすべての生活を奪っていったが、主人公は神の御加護のようなゆったりとしたものを心の中に感じ、ただ素直にそれに従った。

人間生活及び国家の危機を招きかねない恐ろしいペストの猛威である。contagionコンテイジョンという映画まで出てきて、感染の映画である。

 

ロビンソンも、同じように孤島で、神のご加護にすがって生きていたのだ。神のなさることをありがたく受けとるというのが、かれの考え方だ。

日本人にも通じる考え方であろう。

 

デフォーは徹頭徹尾、観察眼を磨き、文章を書き続けた。ペストはデフォーが5歳の時の出来事であったがそれは目に焼き付いていたに違いない

事業をおこしては失敗し、波乱万丈の人生を送ったあまりにも特異な人物であった。

 

 ペストの記憶の緻密な文章は一見に値するであろう。

 

ペスト (中公文庫)

ペスト (中公文庫)

 
デフォー『ペストの記憶』 2020年9月 (NHK100分de名著)

デフォー『ペストの記憶』 2020年9月 (NHK100分de名著)

  • 作者:武田 将明
  • 発売日: 2020/08/25
  • メディア: ムック