アメリカで、赤狩りにあって追放されたチャップリンの、アメリカでの最後の映画。傑作と伝わる「ライムライト」だが、
今までとは全く違った作風となっていて、見た人は驚くであろう。
色々な意味で、虚無的で、懐疑的になってしまったチャップリンの冷えきった気持ちが伝わってくる。
ただ、それを隠さず、「冷たい表情、憎しみの表情、妬む表情」など、人間の持つ醜い心をきちんと表したところは、さすがである。
売れなくなった道化芸人の舞台を待つ人はもうおらず、舞台には客が一人もいないので、がらんとしている。その寂しさを酒で紛らすだけになった。
ところで同じアパートに住む若き女性のバレリーナ。
足が動かなくなったバレリーナは心理的に苦しんでいた。姉の売春によってバレーを習い学校に行ったという経歴を持っていた。
その姉に負い目があり、踊ろうとすると、足が動かなくなるのである。
チャップリンはこれに気づき、叱咤激励して彼女を一人前のプリマドンナへと、持ち上げてゆく。
しかしそこには、チャップリンの犠牲が、払われていた。見納めに彼女の舞台を眺めて、心臓の弱った彼は、舞台の袖で目を閉じたのだった。
これは喜劇というものでもなく,ロマンスでもなく、淡々としたドライな目で現実の舞台人間の人生を受け入れようと必死にもがく
老年のチャップリンが見えてくる。かつての栄光は夢であったと、彼はおもっている。これはそれでも、シニカルに頷ける映画であった。
だが彼は、心の底では、負けるものかと、自分自身に問いかけているのである。