スッポコ谷の楊貴妃

もうすでに還暦女子。すっぽこだにで瘀血と戦ってます。ホテルの換気扇が嫌いすぎて旅行できないのが悩み。

短編 書記バートルビ ハーマン メルヴィル作 1852年頃

メルヴィルというのは、白鯨の作者で、1819年に生まれたアメリカの作家である。

メルヴィルは、死後になって発掘され有名になった作家である。

生きている間は、ほぼ、注目に値しない作家として放っておかれたのだ。

 

裕福なニューヨークの家に生まれた。

彼の母方は、アイルランドの有名な家柄であった。父方の方も、戦争で名を挙げた立派な家柄であった。これらの影響から奥深い洞察力や、余裕ある考え方が、生まれたのかもしれない。

が、父親の破産で、全て変わってしまう。学校を出たらすぐに働くのだが、色々な職業につく。銀行に勤めたり、教師になったりだが結局は、海洋船に乗り込むようになる。それも捕鯨船に乗るようになる。

その船長たちは、とても気が荒く、白鯨の船長のモデルになったのだとおもう。

船長によって殺されるような恐怖を味わい、とうとう船を仲間と脱走もした。

島に着いたが、人食い人種の島であった。

そんな経験を、また誰にも邪魔されない真似のできない自由な生き方を、小説に書くようになった。

彼は自由を求めて放浪した。

また孤高の精神の持ち主でもあり、小説協会の会員の誘いも断っている。

 

彼の人間観察はかくも鋭く、個性的である。

 

そんな個性がよく出ている作品は書記バートルビである。

これは少し不思議なお話である、だが登場人物がとても面白いので読んで損はしない気もする。

  本文:

法律家の事務所に勤めることになった、書記のバートルビは、とても大人しくて蒼白な痩せた若者である。

独特の見てくれを気に入って、雇ったが、これが、悪魔のような人間であったのだ。

全てがマイペースで、誰のいうことも聞かない変な奴であった。

「それは御免こうむりましょう。」といって雇い主の命令を決して聞かない社員であったのだ。

食事に出ることもないし、一日中じっと机に座ったまま書き物をする以外、何もしていないのだ。

最後には唯一の仕事である耕筆も拒否して、事務所に住み着いてしまい、テコでも動かぬのであった。

「出て行ってくれ!」と行っても、「それは御免こうむります。」とだけ答えた。

そんな彼には、彼の運命が待っていた。それは、俗人たちが考えて与えた、当たり前の終り方であった。

 

彼のことを考えるとき、誰でも内面が動揺し、たまらなくなる。

彼の罪はそれだけであった。常識から外れた異形の精神は、常人には堪え難いものであった。

 

白鯨のようなダイナミックな作品とは正反対の小作品である。この時代に、このようなシュールな作品が生まれたことに、メルヴィルの力量を見たような気がした。

 

ps:     メルヴィルは家庭運が悪く、ふたりのむすことも、別れてしまった。

何事にでも、深く身を投げ入れた者は悲しいかな、高い業績を得ても、家庭は彼から離れてゆくのが常である。アーメン。

 

 

筑摩世界文学大系 (36)

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