やんごとなき生まれの王子ラセラスは、王子の時は、大きな谷の中に閉じ込められていた。
代々の王子はそこで帝王学を学ぶならわしになっていたのだ。多くの家来や学者たちとひとつの村のように暮らしていた。のだが。
だが、王子ラせラスは逃げることを考え続け、広い世界へと乗り出すのだった。
一緒にお伴してきたのは、イムラックという執事であった。経験豊富なイムラックのおかげで、この世の冒険にもひるむことはなかった。
王子は従者らといろいろな場所に行くのだが、「この世の見るべきものは見つ」と言うわけで、最終的には、勉学に励むことを決める。
この世の教養を極めるために、世間から引きこもって書物と暮らすと、従者に宣言する。
イムラックは進言するのだった。
「そのような人間を私は知っておりますが、そういう人はたいへんなことに
なってしまうのです。」
ある天文学者の話をする。
何年も何年も、籠って、天文学の研究に打ち込んだ博士は、とうとう、頭がおかしくなったのだった。
おかしくなり方が、また変わっていた。
太陽も月も、この天体を司っているのは自分自身だと、思うようになっていたのだ。
雨、洪水、干ばつも博士が望めば、その通りになるというのだ。
彼は間違いに気づいておらず、時に愛想よく人をもてなしさえするのだが、心が狂ってしまい、どうしても思い込みが、治らないのだった。
イムラックは言う、こうした人間は実は多いのだと。
このようにならないためにも、王子には、勉学ばかりに引きこもるのは良くない。むしろ、この現実の世の中で生きて行くようにと、心から忠告するのだった。