今更、「海の上」っていう手もあるまいとおもう人もおられるでしょうが、めっちゃ良い映画なのでお勧めしたい。たぶん、ピアノ映画の中では、最高峰であろう。エベレストのような映画。エベレストには行ったこともありませんが。
ティム ロス主演の映画であるが、ティムは、そんなにメチャメチャいっぱい映画に出ていない。
のに、この演技だ。きっと監督が、とにかく凄いんだろうね。
船から陸に降りたことのない男の話だ。本当に土を踏んだ事がない男の話です。
赤ちゃんの時大きな客船のピアノの上にすてられていたのだ。船員達が、懸命に育てて、大きくした。
船の中を自分の世界と思い、広い甲板を走ったり、眠ったり食べたりしている。
コックも、医者も、神父も何でも揃っていて何不自由のない生活ができる。こんな理想郷はめったにない。
彼は知らぬうちにピアノを弾くようになる。そして、海の上のピアニストとなったのである。
彼の演奏はなぜか人を引きつけて、有名になっていった。船の客達の口コミ力だろう。
船の上にすごいピアニストがいるという噂が、陸の方にも伝わってきた。
それを聞きつけたジャズの天才(自称)が怒ってジャズピアノの腕前は俺が一番だと言って、挑戦状を送ってきた。
うけてたったのだった。男として、船の船員達のためにも、また、孤児の意地に賭けてだ。
そして順番に一曲ずつ弾いてゆく。審判は、観客たちである。
この時から二人の男の熾烈な闘いがはじまる。まるでボクシングマッチのチャンピオン戦か、真昼の決闘かと言った様子を呈してくる。よそ見もできず、電話にも出れず、何か魔法に書けられたようになるすっぽこ。皆が生唾を飲み込んで見守るなか、船の男は凄い曲を弾き始める。
えーっ!って感じだ。このようなピアノは空前絶後である。彼は渾身の力でピアノを叩いた。
それは激しすぎて誰もついて行けないようなものであった。
その激しさの中に彼の孤児としての悲しみや苦しみが見えたような気もする。陸に上がれない船の亡霊として 生きていくだけの人生はかくも深刻ではげしいものであったのか。
相手の男も何か苦労人のようではあったが 、人生が船の上だけであるはずがないのだった。この男は、陸での生活もあり、名声を望んでいた。
もう一人の我らが主人公はそんなものはないも同然。彼には本当の名前さえないのだった。
「nineteen hundred 」という変わった名前を付けられてはいたけど。
船が古くなり、解体されることになった。ダイナマイトで爆破することに決まったが、彼がまだ船に住んでいる事を確信して爆発をやめさせようとする一人の男がいた。元友人の船のバンドマンであり、彼は絶対に船から降りていないと言いはった。船は動かなくなって何年も経っていた。乗組員たちももう誰もいない無人の船であった。
彼は、でも一人で船にいたのだ。船を降りろと説得する友人に首を振って、ここに残るからという彼。
あした爆破されてしんでしまうよといっても、かれは「ノー」という。いずれにしても、陸では生きられないのであるから。
彼は次の日船と共に海に散って行った。さよなら、nineteen hundred. これが彼につけられていた唯一の名前。
なぜこの映画が胸を打つのか、それぞれに、思いはあろうが 、スッポコはこの障害者のような生き方に星の瞬きのような美しさと同時に、深い悲しみを感じるのだった。