田中絹代と溝口健二監督のコンビ作品ですよ。田中が一番脂が乗っていたころかとお見うけしましたが。何しろまだ我々家族のだれもうまれていない。傑作の雨月物語は別として、コレはメロドラマというか少し前のものならこういう風になるのはとうぜんのながれかも。
ここは戦前の武蔵野で原野が広がり泉や池などもあちこちにあった。東京中心から離れていたため空襲なども他県のことのような呑気なところもあった。
自然豊かな平野の中に昔ながらの大きな家があって地主のようなもので金持ちであった。
そこに住むのは両親と娘夫婦の四人であった。絹代夫婦には子供がいない。つまりセックスレス夫婦であった。そこに戦争からイケメンのいとこの青年が帰ってきて、絹代は彼のことが好きになっていく。不倫物語である。イケメンの勉を連れて、武蔵野の自然の中を案内して二人で歩くのである。
そのうちに二人は嵐を避けて、ホテルに一晩泊まる。これはやばいぞ!とドキドキして観ていた。しかし二人は結ばれずに 清い仲でいる事を誓ってしまうのだった。いや絹代が一方的に誓ったのだった。周囲の人々は乱れて交わり乱行パーティーのような有様であったので、自分達だけは清くあるべきと直感的に思った絹代であった。旦那も隣の奥さんとできていたしで。
画面には余り感じられないが、実際にはもっともっと力強い美しい緑が広がっていたであろうことは、画面の端々でわかるのだ。だが監督はここはあっさりと流して撮っている。高木の並木などが印象的であるので後はご想像におまかせということだろう。
大きなお屋敷には歴史が感じられていかにも長く 続いた家柄のようである。武士の血が流れているのが両親の自慢であった。
絹代が帰ってみるとだんなは隣の奥さんと土地の権利書を持て逃げていた。
権利書はこの家にとって命のように大切なものだった。命の水のようなものであった。
そんなわけで、この家の後を継ぎ、この家を守ろうと決めていた絹代の胸に大きな穴が空いたのだった。
絹代は薬を飲んで、自分を葬った。
日本ももうすぐ終戦という激戦中に撮られた映画であり、勢いがついて激しい終わり方になっている。