スッポコ谷の楊貴妃

もうすでに還暦女子。すっぽこだにで瘀血と戦ってます。ホテルの換気扇が嫌いすぎて旅行できないのが悩み。

炎上 金閣寺より1958年 市川崑監督

f:id:dekochanya:20160310164510j:image金閣寺の炎上事件が1950年に起き、1955年に修復された。

三島由紀夫は1956年に「金閣寺」を発表する。この緻密な小説は三島の金字塔となった。
誰でも知っている金閣寺だが、誰もが知らない金閣寺がそこにはあった。
金閣は主人公溝口(市川雷蔵)に取っても特別な存在であった。1397年に足利義満が建立して550年も京都の地で全てを見下ろしてきたような金閣は、主人公が見たときには、もう古びてボロボロの状態になっていたはずだ。父親は、金閣寺がいかに素晴らしいものであるかを彼に常々言ってきかせていた。
だが父親は、彼を預けてすぐに死んでしまい、借金だけが残った。長年の結核のために持ち寺も抵当に入っていた。彼にはもう帰るところも無いのだった。父親と老師は若い時一緒に修行した中で友達であった。老師は運もよく、国宝金閣寺の館長に、一方溝口の父は寺もとられて、死亡。この差は何であろうか。
父親の紹介で金閣の老師のもとでくらすことになる。ゆくゆくは、後を継いで金閣の老師になってほしい。それが家族の願いであった。老師は、彼を仏教系の大谷大学にも入れてくれた。お金も払ってくれた。だが老師は一方で俗人のような生活を送り、女を囲ったりして、愛欲に溺れているのだった。老師のそんな生活を見てしまったことから老師に憎まれるようになる。
大学で出会った足の悪い学生の柏木(仲代達矢)は彼独特の美学と眼力を持つ奇妙な、しかし手強い男であった。
彼は障害者であったが、女についても詳しく既に愛人の様な女を二人も持っていて、女は彼にぞっこんであった。不思議な魅力によってくる蝶の様に。
これは 原作にあるのだが、
もうひとりの友人はお寺で一緒に暮らす青年で東京のお寺の息子であった。彼は精神的に優れていて、吃音の彼をかばい優しく支えていた。しかし突然の交通事故で亡くなる。実はかれは女の事で悩み、トラックに飛び込んだというのが真相であった。それを溝口は、ずっと後に知ることとなる。
さて溝口はひどい吃音で、誰とも喋らず、孤独であったのだが、同じように障害者という事で柏木を仲間と見た。かれに接近して付き合うのだが、柏木は毒を持った友人であった。主人公は大学をサボる様になり、老師からしかられる。寺を飛び出してあちこち旅行してまわる。父が行ったという日本海の町に行ったりしていたのだった。旅費は柏木に借金をして得た金であった。これが知れて、叱責される。金閣寺に来た時から運が悪く、事件に巻き込まれたりしていた。吃音が激しくて人ともまともに話せないので、ずっと馬鹿にされてきたのだし。なぜかお経はすらすら読めたのだが。困ったことがあるたびに、かれは金閣に頼り、これを見上げ、これを夢見、これと話した。かれにとって、金閣は、亡き父親であっった。また、それ以上の宇宙の様なものだった。母の胎内であった。
老師はとうとう、「お前を後継にはしないからな。お前の様な不埒者はこのお寺に置くことはできないぞ。」といいわたす。
そんな折、溝口の心の中には「金閣寺を焼くのだ。」という言葉が浮かんできて、とうとうそれを決心してしまうのだった。
一旦決心をしてしまうと、後は楽だった。今までの苦労を忘れて、焼くことを夢想するだけで、夢見ごごちとなるのだった。国宝である金閣寺は、こうやってひとりの青年の手によってあっけなく燃え尽きた。荘厳で素晴らしい燃え尽き方であった。
金閣は、しゅう閣と言われていて いた。シュウというのは烏合の衆のしゅうであるが昔漢字だ。
逮捕された主人公は列車で連行中に飛び降りて死亡。母親は列車に飛び込んで死亡。
こうして事件は終わった。三島原作では火をつけて一目散に大文字山の頂上に上がり詰め、其処で
轟々と燃え盛る炎を見ていたのである。かれは落ち着きを取り戻し、タバコを出してプカリと一服ふかすのであった。こういう場面で終わっているにだった。
    こうしてみると金閣寺は、変わった寺だ。ひどく歪(いびつ)であり、人間を拒むのをやめないのである。
金閣のせいでこのひとりの青年の人生が狂ってしまったのではないだろう。青年の心の中は、理路整然と説明できる様なものではない。意識と無意識、現実と求める理想とが、あまりに離れていてその距離には真空の様な空間が広がっている。そのチグハグさは金閣寺の屋根によく似ている。周囲から頓着されず気づかれぬまま孤独が積もっていく様をこんなにもひしひしと描かれた小説は少ないのではないか。その孤独は大抵誰でも持っているような気もするし、気の毒な主人公の生い立ちにも原因があるだろう。何れにしても悲惨であり、煌びやかな金閣寺との対比で否が応でも大きな亀裂がパックリとあき、そこから地獄が見える様な気持ちになる作品である。三島は一切の救いをそこに敢えて与えずして、書き切ったのであった。
f:id:dekochanya:20160310173236j:imagef:id:dekochanya:20160311002007j:imagef:id:dekochanya:20160311002037j:image燃える前の古い金閣寺は本物である。切ない様な日本の歴史は我々の血の中に生きていて気持ちが昂ぶる。復興された金ピカのものより何倍も美しい!。金閣寺は生きているという主人公の言葉が蘇るのだ。そういうものを見ることが大切であり、心の栄養となり積まれていくのだと思う。それに気づいた金閣の読書であった。
三島の執念は此処に凝結し金閣に吸収された。三島の血を吸ってますます生き物の様になったのである。

 

 

 

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