この阿闍梨、決して背中を西に向けることをしなかったのだと。
西方は極楽浄土のある場所であるから、敬っても敬いきれぬ方角なのであった。
だからして、何をするときでも西に背を向けなかった。
山に登るような時でも背に光を浴びぬように横なりに歩いて登った。
このようにして毎日毎日過ごした。
彼は往生して極楽浄土に行きたいと願いそうしているのだった。
木であっても傾いた方角に倒れるものだ。人もまた思いを遂げようとする方へ行くのではないのか。
わしも臨終正念を疑わずにおるのだ。そう言っていた。
この阿闍梨は、ついに、大往生を遂げて浄土へと行った。
この話は往生集にも載っているとかである。