カフカ原作の「断食芸人」である。すでにたくさんの人が読んだカフカの短編であるが、スッポコは初めて読んだ。短編は だいたいすぐに読めたし、読んだので映画に向かった。原作ではとても内省的な主人公であるのだが、映画でも、そういうところを良く引き出せていたと思う。
都会のアーケード街で座り込んで動かない男に対して、写メを撮ったり、いろいろ質問する人、マスコミの人がたくさん押し寄せる様になった。最後には、国の権力で この無防備な男を守ろうという事になり警備の人が付くのであった。
断食男のところに集まってくる人々は、自分は生きているのが虚しいと悩みを打ち明ける人が多かった。
この飽食時代に彼は何か神秘的、斬新な力で人々をひきつけるのだった。「芸人」とは世間が勝手につけた名前であり、本人は、ただの本人であった。
原作 では 彼は本当の芸人であり、見世物小屋で生きていたのであった。昔はこの芸人は人気があったのだが 今では人気もなく人だかりも無くなってしまい、珍しい動物の檻の近くに置かれて、ほとんど見物人はいなくなるほど落ちぶれてしまっていた。だが映画では 少しも動ずることもなく 変わることなく平静でいるのだった。悟りを開いた尊い人とも言われた。
この人は、津波で何もかも失って、都会に来た人という設定がされているようだ。様だというのは明らかではないからだ。
この平静さこそが、この男の最たる特徴であり 尊ばれる部分であり、また憎まれる部分であった。
最後には、、この不遜な断食男は憎まれて、警備の男に射殺されてしまう。
原作では、やはり動物のおりにいれられて、見捨てられたまま時間が経ち 知らない間に死んでいたのだった。藁の中に死体があった。それをポイと葬って、新しい獰猛な動物を入れたのだった。
見物人は喜んで ぞろぞろと並ぶのであった。
時代はまったく違っていたのだが
断食するものの人間性はあまりかわっていない。
カフカは、変わった人間を選んで描き 、平凡で世俗的な我々の境界型人間として描いた。
拒食症 、ダイエットなどの現代に巣食う病魔も、もとは平凡な場所で生まれ育ったものであるだろう。
原作は主人公の内面が、内省的ではあるが、独りよがりであり、外界に合わせてはいるが、ちぐはぐで釣り合っておらず、また、この芸人は、檻から出たら果たして生きて行けるのだろうか、という疑問もわいてくる。
生きている人間は、常に食べ続けていないと死んでしまう。
こんな困難はない。苦しみであるから、食べずにおられたらと夢想せずにはおれないものだ。
スッポコは他の人より食いしん坊なので、より苦しんでいる。
映画も原作もまとまりのある、良い作品だった。映画が過激であったのは、カフカから受ける印象が、
やはり過激なロックの様であるからである。
このDVD はの左側の白髪のおじいさん、こんな人映画には全然出てこなかったと思うのだが、これも演出なのかなあ。
良かった悪かったと、意見の分かれる映画だそうだが、スッポコは、別に、悪いとは思わなかった。