スッポコ谷の楊貴妃

もうすでに還暦女子。すっぽこだにで瘀血と戦ってます。ホテルの換気扇が嫌いすぎて旅行できないのが悩み。

アテネのタイモン シェークスピア作

シェークスピアの最後の戯曲となった「アテネのタイモン」について書くにあたって、なにか胸に迫るものがある。有名な マクベスリア王などとは何か違う様子の作品で、最後の力をふりしぼって何を伝えようとしたのか。アテネとは英語読みでアセンズともいう。「アセンズのタイモン」ともいうそうだ。

プロットも単純で、ひとりの男が主人公だ。タイモンと言う男だが、とてもとても大金持ちで、また優秀な武将でもあったそうな。しかし彼の金の使い方は、あくまでも人のためのみである。ずば抜けた財力を人のために湯水の如く使うなんて、本当に楽しい事ではあるだろうが、現実は自己満足、お金自慢で、現実が見えなくなってしまっている男である。恐ろしいことが待っている事は予感としてある。後々それはとても恐ろしい悲劇となってゆくのである。
困っている自分の召使に結婚資金をやるが、一気に貴族になれるほどの財をあたえるタイモン。貴族のむすめと家柄がつりあうようにと気遣ってのこと。牢獄にはいった人を保釈するために親戚でもないのにこれまた考えられないほどのお金を支払ってやるのだった。
彼の周囲には、元老院、貴族、画家、詩人、宝石商などありとあらゆる人々がうようよと取り巻いていて賑やかである。毎日盛大なパーティーをして、ホームレスや乞食に至るまで、「偉大なるタイモン様、ありがとうございます。」と言えば豊かな施しがもらえるののだった。貴族たちもおべんちゃらタラタラでいくらでもタイモンからいただくのであった。宝石や絵画を見せるだけで、タイモンは大喜びで大金を払う。じぶんを頼ってきている者達は、その分だけかわいい子分のようなもので彼には大きなかちにおもえて、法外な大金を払うのである。
このようにタイモンの気前の良さは、人間性を信頼するという見えない絆に対するものだったとおもわれる。信頼と友情、それをけっして裏切らないという約束の為のお金。考えてみれば、大金でそんなものを買おうとすることは、空恐ろしいことでもあるのだが。実際には見えない信頼や友情をかっても所在もないものですし、自分の愛を振りまくたびにどんどんタイモンの倉からお金が流れていくのでした。
なぜタイモンはこの浪費が自分で止められなかったのかということが重大な問題だ。依存症によるものではないのか。昔からそのような病があったということか。
タイモンは、いわゆる心の病であっただろうと思われる。タイモンは宿命によって財を持つ身になったのだがじつは持ってはならない人間であったのだ。
または、人間はあまりに大きな財産を持つと皆がタイモンのようにおかしくなってしまうものなのかもしれない。
だが、厳しく吝嗇な人間は、どんなにお金があっても、タイモンのように人に施しはせず強欲とともに生きているのかもしれない。それは堅実に見えてはいるが、人間性を歪めてゆくし、人に忌み嫌われるのだ。実際にそのような例はよくみられる。
 
タイモンは育ちの良い、騙されやすいボンボンなのである。
なにかしらの心身の病気のために集中力が切れてしまうのか、考えるための忍耐力がなく計画性がほとんど見られない。
スッポコはこの話が、本当に、怖くて、お金の怖さが一番よくあらわされた作品であるとおもう。世界中を探してもこれほどにお金にまつわる悲劇を書いてある書物はないからだ。
赤貧を洗う生活苦の作品もこれほどの悲劇にはなっていないのだ。
芥川の杜子春であっても、おとぎ話のようでたのしめるだけだ。
オリバーのような孤児でさえも、最後はお金持ちになるではないか。
 
 
 
タイモンはバカだ。大馬鹿だ。しかし最後に皆が彼にために彼を偲んでやってもよいのではないか。彼は何一つ人々に悪いことはせずに、逆に善行をほどこしてきたのだし。ただそれが彼の悲劇の道ではあったのだが。お金の尽きた後は、
かれはアテネの皆に裏切られてひとり海の洞窟に住み、乞食の姿で、草の根を食べて暮らした。ただ一人彼の執事のみが彼の身の回りの世話をしようといじらしくもつきそっているのだった。いや召使たちは全員タイモンを慕っていたのだが。
タイモンは破産した後自分をあっさりと見棄てたアテネの人々を憎み通した。アテネがある謀反人から攻められそうになり街があぶなくなったので強い将軍だったタイモン様を連れて帰ろうということになった。彼は作戦に秀でていた。しかしこれ、ウソだろう。簡単に人を信じて、みずから破産してしまったものが良い将軍のわけがない。
アテネから使いのものが来たが、なにも身につけず裸のままで、という有様であった。あまりの気狂いのような様子に恐れをなして帰って行く。「タイモン様はもうすっかり…」と言って洞窟をさっていく。タイモンは「アテネがすべて滅びます様に」と強い呪いの言葉を残し、遂に自害するのだ。謀反人の将軍がタイモンの墓碑をよみあげる。
「私タイモンは、くだらぬ人間だった。だから海辺の波打ち際に墓を立てる。アテネが滅びますように。私のことは思い出さないことだ。」高潔なるタイモンのことは後に語り合うとしよう!そう言って
将軍はアテネとは和平を結んだ。彼は生前のタイモンを憎むことができなかった。彼の魂の異常ではあるが、その高潔さと優しさを知っているのはこの将軍と最後までいた執事ぐらいであった。
 
 
未完とも言われるこの作品である。舞台になる回数も断トツ低く、マクベスなどには及びもつかない。が、なぜかわたしにとってはたった一つのシェークスピア作品と思えるのです。
恐ろしい運命の反面教師として、タイモンのようにならない様に気を付けてというシェークスピアからの最後の伝言でしょうか。
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アテネから来た訪問者と会うタイモン。
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裸で暮らす絶望のタイモン。